2025.12.24

移住者体験談

【佐々町】流れのままにたどり着いた町で、居場所を見つけた──長崎県佐々町が “地元”になるまでの物語

流れのままにたどり着いた佐々町

福岡県北九州市出身の江藤さんが佐々町を訪れたのは、特別な移住計画があったからではありません。
高校卒業後ファッションの専門学校に進み、アパレル一筋で働いてきました。結婚後、子どもが生まれるタイミングで「一度、妻の実家に行ってみよう」と訪れたのが佐々町との最初の接点でした。

「最初は本当に何も決めていませんでした。とりあえず来てみよう、という気持ちでしたね」

妻の実家の貸衣装業を手伝いながら生活を始めましたが、2年ほどで事業は終了。突然の状況に、福岡へ戻る選択肢が現実的になります。それでも江藤さんは「ここで一度勝負しよう」と決断します。

「このタイミングを逃したら、もう挑戦しないまま終わると思ったんです」

その選択が、後の人生を大きく動かすきっかけとなりました。

“クラシックスーツをつくりたい”という夢

若い頃からスーツへの憧れがあった江藤さん。
「昭和のお父さんが着ていたような、少しゆとりのある大人のスーツをつくりたい」という想いが胸の奥にずっとあったといいます。

独立したものの、当初は仕入先も縫製工場とのつながりもなく、何をどう始めればいいかわからない状態でした。そこで平戸市のスーツ工場を訪ねたところ、担当者が専門学校時代の同級生だったという偶然の出会いがありました。この再会をきっかけに、生地問屋の紹介、採寸のノウハウ、技術者とのつながりなど、事業に必要な幅広いネットワークが一気に広がりました。

こうして誕生したオーダースーツ専門店『L’ECRIN(レクラン)』は、2024年で12年目を迎えています。現在は佐々町だけでなく県内外からも注文が入り、江藤さんのクラシックなスタイルは多くの人に支持されています。

キャンピングカーで全国へ

江藤さんの仕事には、もうひとつの大きな特徴があります。それは「キャンピングカーで全国を回るスーツ職人」であること。採寸道具を積み込み、依頼があれば東京でも関西でも出張。仕上がったスーツは可能な限り手渡しで届けるスタイルを大切にしています。

出張先では仕事後に地域の人と食事をすることも多く、そのつながりが次の依頼や新たなご縁へと広がっていきます。佐々町という“田舎”を拠点にしているからこそ実現した、独自の仕事の形です。

商工会青年部がつくった「居場所」

移住当初は知り合いがおらず、夜になると一人で飲みに出る日々が続いたといいます。そんな中、救いとなったのが佐々町商工会青年部との出会いでした。

「みんな優しくて、話していくうちにすぐ受け入れてくれました。同じように事業をしている仲間なので、本音で話せるのが大きいですね」

青年部では子ども向けイベントや地域活性化事業に積極的に取り組んでおり「子どもたちが大人になったときに”戻りたい”と思える町をつくりたい」という想いが共有されています。4人の子どもを育てる江藤さんも、この考えに強く共感しています。

「佐々町は、ちょうどいい距離感で寄り添ってくれる町。困ったときに自然に手を差し伸べてくれる。子育てをするうえでも、本当に心強い環境です」


当初は「流れで来ただけ」だった町は、いまや江藤さんにとって最も“地元らしい”場所になっています。

「地元って、生まれた場所だけじゃなく、自分を受け入れてくれた場所のことだと思います。佐々町は、まさに自分にとってそんな町です」

これからもスーツづくりを通じて、人をつなげ、佐々町の魅力を県外へ発信していきたい――江藤さんはそう話してくれました。