長崎県への移住相談で耳にすることの1つが、『農業を始めたい』という新規就農の相談。
農業を始めるといっても、経験の積み方や軌道に乗るまでの収入など、様々な不安がつきものです。
そんな不安を解消すべく、長崎県壱岐市は、経験を積みながら収入を得ることができる農業版マルチワーカー制度を導入しています。
今回は、壱岐市農業協同組合の松永さんに壱岐市で取り組んでいる農業版マルチワーカー制度についてお伺いしました。
お話をお伺いした方
- 壱岐市農業協同組合 担い手支援課
- 課長 松永 勇一さん
壱岐市とは
壱岐市は九州北部の玄界灘沖、福岡県と対馬の中間地点に位置しています。
日本一にも輝いたことがある長崎和牛「壱岐牛」・イチゴ・アスパラガスなどの農産物や、ウニ・サザエ・マグロなどの海の幸といった、海と山・大地に育まれた豊富な食材が自慢の島です。
農業版マルチワーカー制度とはどのような制度なのでしょうか?
壱岐市で、自立して農業を行う人が増えるように願って作った制度です。
壱岐市では、10年後に向けて農業を通して100億円の収益を目指しています。
その目標を達成するため、新規就農者100人を目指しているところです。
新規就農者を増やすにあたって進めているのが、主に
(1)新規就農者支援事業
(2)農業版マルチワーカー制度
(3)アパートハウス事業
の3つです。
(2)の農業版マルチワーカー制度は、収入を確保しながら、現場での技能習得につながる機会を作るための制度となっています。
壱岐市で農業の自立を叶える足掛かりとなるよう、2021年度から事業を開始しました。
具体的な制度内容について教えてください。
この制度の目的は、島内の農業者にとって課題となっている担い手不足の解消と、農業を希望する人の雇用の受け皿を増やすことです。
農業はシーズンによって忙しい時期と落ち着いた時期が発生するので、農業者さんにとっては忙しい時期のみ人手が欲しいという声があります。
そこで、複数の農業者さんで出資を行ってできたのが「壱岐市農業支援事業協同組合」です。
農業を志す方や、壱岐市への移住を考えている人を「壱岐市農業支援事業協同組合」の職員として雇用し、
出資いただいた人材不足に悩む農業者さんへ派遣するというのが、壱岐市で実施しているマルチワーカー制度の概要です。
農業者さんにとっては、人手不足の解消、そしてマルチワーカー側は、安定した収入を得ながら農業経験を積むことができる制度です。
現在は2名を雇用しており、1名は畜産農家としての独立を目指して働くIターン者、
もう1名はマルチワーカー制度を通して、自分がやりたい農業をみつけたいというUターン者です。
どちらも未経験からの出発で頑張っていますね。
受け入れ先の農業者さんについて教えてください。
現在の受け入れ先は7つです。
壱岐市の農業で主となっている畜産農家と、イチゴ農家、そしてアスパラガス農家に受け入れ先となってもらっています。
派遣をする上では、マルチワーカーへのヒアリングをしっかりと行います。
栽培したいものや、取り組みたいことが決まっているのであれば、将来に向けて経験が積めるような場所とのマッチングができるように調整します。
一方で、これからやりたいことを探すという方の場合は様々な経験を積めるように調整しています。
マルチワーカー制度では、同じ受け入れ農家のもとで働くことができるのは最長8ヶ月です。
常に希望する場所で働くことはできませんが、可能な限りご希望に添えるよう調整していますね。
2021年度に始まったばかりの事業で、受け入れ農家の数もまだまだ多いとはいえませんが、多様な経験を積むことができるよう受け入れ先を増やしていく予定です。
マルチワーカーとして働く際の労働条件を教えてください。
週40時間が基本となります。
作業の段取りや進捗状況によって、30分から1時間程度の時間外が発生することもありますが、その分の残業代はお支払いしています。
休日は週に2日ですが、受け入れ農家の定休日に応じるケースが多いです。
給料に関しては、時給930円~。
社会保険と年金、通勤手当なども準備しています。
新規就農に向けた支援内容はどのようなものがあるのでしょうか?
現在、壱岐市では
(1)新規就農者支援事業
(2)農業版マルチワーカー制度
(3)アパートハウス事業
の3ステップで新規就農の支援ができるよう整備中です。
(1)新規就農者支援事業は、就農に必要な作物の栽培技術と農業経営のノウハウについて、研修を主体に学んでいただくものです。
1年間に及ぶ研修のコースでは、月々10万円の研修支援金を支給しています。
研修を受けた後は、農業版マルチワーカー制度を活用し2~3年現場で学んでいただくことも可能ですので、
農業を体系的に学び、経験を得ることができるのではと思います。
独立支援を目的とした(3)アパートハウス事業は、
JAで農地の団地化を実施し、区画の一部を賃貸借として貸し出すことで初期投資を抑えて就農可能にしていくものです。
まだ計画中の段階ですが、この事業も新規就農に向けた支援の一つ。
ビニールハウスを導入する際って10アールで1,000万円くらい必要なんですよ。
半分を助成金で賄えたとしても、それでも500万円はかかりますよね。
加えて、色々な資材も必要になってくるので、農業を始めるにもお金がかかってしまいます。
初期費用をうまく抑えながら農業に携わってもらえるよう、支援内容を考えています。
現在、壱岐市でマルチワーカーとして働く2名の方は、新規就農者支援事業を活用せず、農業未経験で始動しています。
必ずいずれかの段階を踏まなければいけないというわけではなく、ご自身に合ったやり方で新規就農に向けて動いていただけるよう準備をしていますね。
マルチワーカーとして働いていただく間のフォローとしては、
随時相談日を設けて対面でお話をお伺いしたり、農協や市役所職員で構成された担い手サポートチームで定例会議を行い、どういう支援が必要か話し合いをしたりと、壱岐市に定住して農業を行える環境を整備しています。
新規就農に向けて、収入を得ながら経験を積みたい方はもちろん、壱岐市に移住したい方も興味を持っていただけると嬉しいですね。
◆壱岐市農業版マルチワーカー制度に関するお問い合わせ先
壱岐市農業協同組合
0920-47-1331(代表)
https://ja-iki.jp/