長崎の魅力的な“当たり前“に触れるイベント「ナガサキノアタリマエ」が、11月25日に東京・京橋で開催されます。
ゲストの一人は、長崎都市・景観研究所/null 所長の平山広孝さん。
長崎を離れて気付いた長崎の魅力。人とのつながりを大切にし、地域活性化に取り組む平山さんが語る“長崎の当たり前“とは。
長崎都市・景観研究所/null 所長 平山 広孝さん
1985年長崎市生まれ。和歌山大学システム工学部デザイン情報学科卒、九州大学大学院芸術工学府デザインストラテジー専攻修了。
現在、長崎県立大学地域創生専攻(博士課程)に在籍。専門は景観まちづくりとパブリックデザイン。平成22年3月に長崎都市・景観研究所/nullを設立。最近は長崎の都市環境や歴史文化を生かした遊び「ナガサキアソビ」の普及啓発にも取り組む。
磯の香り、道端のあいさつ、静かな夜。
「魅力」という言葉で語るには、ちょっと地味。けれどもじんわりあたたかい、日常のひとときや、何気ない風景。
旬の食材、真っ赤な夕焼け、おちつく言葉の抑揚。
そんな“長崎県の当たり前”を、全4回にわたってお届けします。
まだ長崎を知らない方の目には、新鮮に。縁ある方の目には、懐かしく映るものもあるかもしれません。どうぞのんびりと読んでみてください。
公務員として、まちづくり活動家としての両立
路面電車が走るまちなみっていいなあ。観光客やサラリーマン、子どもたちにおじいちゃんおばあちゃん。小さな車両に老若男女がぎゅうっと乗り合わせ、通りの真ん中をマイペースに進んでゆく姿はなんとも愛らしい。
長崎市内にも路面電車は走っている。今回は大浦天主堂やグラバー園、孔子廟にもアクセスのいい石橋電停へ。
そこから徒歩1分に位置するHUBs Ishibashiで、平山広孝さんが迎えてくれた。
ここは2022年にオープンした“ネオ観光案内所”。10名のメンバーによる持ち回りで運営していて、平山さんもそのひとりだ。
「この居留地エリアには、観光案内機能がなかったんです。せっかくつくるなら、ふつうの案内所じゃおもしろくないんで、人を紹介したり、交流できるような感じの場所にしようと」
長崎県産のクラフトビールや焼酎、地元のコーヒーショップや日本茶専門店がセレクトしたドリンクも揃う。観光客だけでなく、地元の人もお茶しにやってきて、いつしかひとつの輪が生まれていることも多い。
(写真提供:平山広孝さん)
長崎の斜面地を活用したシェア農園「さかのうえん」や、築130年を超える伝統的建造物を使ったシェアハウス「長崎居留地12A」、繁華街の空きスナックを再生した「まちづくりスナック・ニューシグナル」など、さまざまなプロジェクトの企画運営に携わっている平山さん。
この週末も、旧外国人居留地エリアで開催中の「長崎居留地まつり」の担当者として奔走していた。
一体何者?と思うかもしれない。
本業は、長崎市役所の職員だ。土木やまちづくりの部署を経て、昨年からまちなか事業推進室に配属。まさにこの居留地エリアの活性化を担当している。
「公務員なんで、朝9時15分から18時までは働いています。そこは厳密に。で、18時以降にいろんな会議をやったり、まちづくりの活動をやったり」
平日も休日も、このあたりに通い詰めている。仕事とプライベートの境目はないのだろうか。
「ないことはないけど、崩壊してますね(笑)。ふだんもまちづくりの活動をしてるんで、割り切れないときはどうしてもあるっていうか。ライフとワークが同居してる感じですかね」
長崎県立大学の博士課程にも在籍していて、地域創生を研究中。「年内締め切りの論文をまだ1文字も書いてないんです、やばいですよね」と笑顔で話していた。
そんな、はちゃめちゃにも思えるライフスタイルを実現させるために、平山さんは心がけていることがあるという。
「シェアハウスは居留地の東山手地区にありますし、『さかのうえん』があるのは隣のエリア、まちづくりスナックも銅座という繁華街にあります。畑行った帰りにここ(HUBs Ishibashi)やシェアハウスに寄るとか、スナックに移動してイベントの準備をするとか」
「自宅はアーケード街のなかにあって、市役所まで徒歩12分。昼もご飯食べに家帰ってますもんね。なんなら20分昼寝してから戻ります。仕事が終わったら、飲み会にしても居留地行くにしても路面電車で行ける。移動コストがなるべくかからないように、エリアを絞ることは意識しています。じゃないと大変なことになるので(笑)」
少し離れたエリアで「さかのうえん」をやってくれないか?と声がかかることも。ただ、平山さんは無理にエリアを広げないことを大事にしてきた。
日常の生活動線上に、楽しい種を蒔いていく。そんなスタンスこそ、取り組みの数が増えてもちゃんと一つひとつが続いている秘訣なのかもしれない。
離れて気付いた長崎の魅力
いまでは「ほとんど市内から出ない」という平山さん。ただ、高校時代はこの生まれ育った長崎市というまちから、一刻も早く出たかった。
大学ではデザインを学ぶため、和歌山へ。そして、驚愕した。
「どこへ行くにも車の、車社会なんです。近所のスーパーやスタバに行くのも車。それがどうしても自分には合わなくて」
路面電車やバスも使いながら、まちなかを歩いて回れる。狭いエリアに、歴史や異国の文化がぎゅっと詰まった景観が広がっている。
それまで当たり前だと思っていた長崎の日常が、魅力的に思えるようになった。
「多くの地方都市では、郊外の安い土地にショッピングセンターが建って、コミュニティのあり方が大きく変わりました。長崎は平地も限られていて、地の利がわるいので、まちが広がらなかった。それが一周遅れでよかったんだと思います」
「長崎の好きなところは、この狭さ。ばったり人と会う確率が高いんです。車に乗ってたら会話できないじゃないですか。まちを歩いて、人と会うと、いろんな話が進んでいきます。ぼくはこのコミュニケーション濃度の高さが好きですね」
ちょうどお昼時に差し掛かり、平山さんとランチを食べに外へ。
ほんの10分ほどの道のりで、5、6人と挨拶を交わしただろうか。HUBs Ishibashiに馴染みの常連さんが顔を出す場面もあった。
出先でばったり、なんてことは非日常のような気がするけれど、平山さんにとってはこれも日常。長崎という都市のコンパクトさが、彼のライフスタイルにはぴったり合っているんだろうな。
スポーツ文化を長崎のまちなかで
もうひとつ、平山さんにとって欠かせない要素がサッカーだ。
長崎県をホームタウンとするJリーグ「V・ファーレン長崎」の熱心なサポーターで、市内から近いとは言えない諫早市の「トランスコスモススタジアム」に年間シートを購入するほど。さらに今年は、新たな本拠地となる「ピーススタジアム」が10月に市内に誕生。
これを機に、平山さんは「長崎のまちなかにスポーツ文化をつくりたい」という。
「ヨーロッパの人はみんなサッカーが好きですよね。試合がある日は、ユニフォームを着てまちなかで飲んだりしている。それがシビックプライドにつながっていると思っていて。そういう風景を長崎にもつくりたいんです」
8月には、浜町アーケードでパブリックビューイングを実施。取材の前日は、グラバー園でもパブリックビューイングをおこなった。
目標にしているのは、ドイツのドルトムント。人口60万人弱と、さほど大規模な都市ではないながら、毎試合平均8万人もの観客を動員している。
「せっかくスタジアムができるし、長崎もそういうまちにならんかなって」
(写真提供:長崎市)
平山さんのアタリマエ
つねに人と関わりながら、まちでおもしろいことを起こそうと奔走している。
そんな平山さんの毎日は、想像するだけでハードそうだ。
息抜きしたくなるときとか、ありませんか?
「あります、あります。そういうときは海に行くっすね。たとえば、鼠島。いまは埋め立てられていて離島ではないんですが、超プライベートな砂浜があって。誰も来ないんですよ。ちっちゃいテントを持って行って、ぼーっとしてます」
橘湾に面した茂木や、市民の森キャンプ場など。バイクを20分ほど走らせるだけで、ガラッとロケーションが変わるのも長崎市の特徴。
遊ぶのも、働くのも、リフレッシュするのも。「市内で全部完結しちゃいますね」と平山さんは言う。
「畑があるのも大きいですね。都市の便利さと、斜面地の牧歌的な趣味を両立できる。きつい二日酔いの日も、農作業してたらね、なんか元気になるんですよ。季節がよければ、採れたての野菜を畑の横でバーベキューして食べたりもします」
(写真提供:平山広孝さん)
「県外旅行とか、ほんと行かないですね。同じメンバーで、いつも集まって話したり、遊んだり、一緒に仕事したり。それでもうめっちゃ満足なんです」
ああ、なんてシンプルな考え方。
いまここにあるものに目を向け、気の合う人たちと、繰り返す日々を楽しむ。ないものは一緒につくって、その過程もまた楽しむ。
人によってはこの“濃さ”が合わないだろうし、平山さん自身、かつてはこのまちの魅力を感じられずに外へ飛び出した経験がある。
だけどやっぱり、ここへ戻ってきた。顔の見える人たちが暮らす、このまちへ。
「知り合いの美容師が斜面地に家を買ったんです。なぜあえて不便な斜面地に?と聞いたら、夜帰宅したときに、まちに向かって『今日もありがとうございました』が言えるから。あー、いい話やなと思って」
「たしかに、小高いところから長崎のまちを見下ろすと、一人では生きていけないよねっていうことをすごく実感するんです。イベントをやろうにも一人じゃできないし、お店にしても、ぼくは人に会いに行きたい。結局人が好きなんでしょうね」
今日も、明日も。平山さんはきっと、まちを歩き、人と話しては、何かおもしろいことを企てているに違いない。
毎週木曜日YouTubeにて「ナガサキノアタリマエ」を公開中!
この連載「ナガサキノアタリマエ」では、全21市町をめぐる動画コンテンツも配信しています。
参加すると長崎が10倍楽しくなるイベントを11月25日開催!
東京・京橋にて、“長崎の当たり前”に触れるイベントを実施します! 記事に登場した4名のみなさんがゲストとして参加されますので、長崎での暮らしに関心をもった方はぜひお気軽にお越しください。
(平山さんは11月25日のゲストです)
- 日時:2024年11月25日(月)19:00〜21:00
- 会場:シティラボ東京(東京都中央区京橋3丁目1−1 東京スクエアガーデン6階)
長崎での暮らし、日々、アタリマエの日常の中にある豊かさにふれ、想いを馳せよう。
個々の価値観は違う。人によってモノサシは違う。東京のような都市部にいても、長崎にいても、それぞれが、今いる環境や暮らしの中に満足感や物足りなさを感じながら過ごしている。長崎にいる人のアタリマエに触れながら、価値観を知り、これからの生き方のヒントや考えるきっかけになる、交流の機会を提供するイベント。
19:00 | オープニング |
19:20 | トークセッション 長崎が10倍楽しくなる!「ナガサキノアタリマエ」 ・長崎のおもしろい人 登場! ・出会ってよかった、ナガサキ ・長崎の面白がり方 ・参加者が知りたい!アタリマエじゃないナガサキ |
19:50 | 「ナガサキノアタリマエ」をテーマに参加市町による市町プレゼンタイム ・長崎市 ・佐世保市 ・五島市 ・東彼杵町 |
20:10 | フリー交流タイム 長崎県の名産品(軽食)やドリンクを囲みながら、来場者と市町担当者がゆるやかに交流 |
20:50 | エンディング 長崎県からのお知らせ |