
- 移住年
- 2006年
- 職業
- 公務員
「どちらかといえばネガティブな理由で田舎に帰ってきました」そう話すのは、佐世保市役所に勤務しながら地域活動を続ける中尾大樹さんです。戻ってきて初めて気づいたのは、地元にとっては当たり前すぎて見落とされていた佐世保の魅力でした。昭和の雰囲気を残す朝市、港町らしい異国情緒、新しい店舗が次々と生まれる活気。万津町(よろづちょう)という小さな街で、中尾さんはカフェやホテルの運営、イベントの開催を通じて、地域の人と外から訪れる人をつなぐ取り組みを進めています。これからの地方創生に新しい光を投げかけてくれる、中尾さんの姿を追いました。
ネガティブな帰郷から、再発見の毎日へ
「出身は佐世保の中心地から車で15分くらいの、大塔(だいとう)というエリアです。いわゆる国道沿いにロードサイド店がいっぱいあるような場所で育ちました」。18歳まで大塔で育ち、大学で関東に。卒業後に公務員試験を受け、佐世保市の職員として歩み始めます。
「(都会に)行かなきゃわからないというか、いろんな面白そうな仕事がたくさんあるな、かっこいいな、憧れるなって思ってました。ただ、18歳から上京した自分では都会生まれの人には追いつけない気がしてしまい、そういう夢は来世に託すことにして、今世は慎ましく田舎に帰って生きていこうと思い、どちらかといえばネガティブな理由で田舎に帰ってきました」
しかし佐世保に戻ってみると、新しい発見が待っていたと言います。当初は勤務先の市役所に近い街の中心地に居を構えていました 。「そうすると、自分が18歳まで育った郊外とはまったく違った独自の雰囲気、オリジナリティのある町だと感じるようになりました。かつての自分もそうだったように、意外とみんな当たり前すぎて気づいていないことも多いと思います」
「佐世保に帰ってきた15年ほど前は、地方創生という言葉もありませんでした。その頃、大学生の時に自分が憧れていたフォトグラファーや編集者が関わるフリーペーパーを北九州市役所が制作していました。『地元を再編集する』、そんなプロジェクトがもしかしたら佐世保市役所の仕事としてできるのではと思い、佐世保をもう一度見直すようなイベントを友人と企画することから始めて、そこから節操なく色々な活動に取り組んでいます」
“混ぜこぜ”が生まれる港町、万津町という舞台
「今活動している万津(よろづ)というエリアはそんなに知らなかったんです。初めて出会うというところもあり、再発見というよりは自分にとって新しい発見でした。山々に囲まれているムードであったり、港がものすごく近かったり。昭和っぽい古いものから今っぽいものまで、いろいろなものが小さい箱庭のような町の中に混在しています」
中尾さんは「この町自体が佐世保のある面のおもしろさを凝縮したような町」だと言い、そんな万津町を舞台に、「いろんな交流を生んでいくような活動」を10年ほどされています。
「若手のお店も、ここ10年くらいで30店舗以上できています。昔はお仕事で来る人が多いところでしたが、今は再発見されているエリアというイメージが強いかもしれません。僕らが活動の拠点にしているカフェのような、小商いのお店も増えています」

朝市をリブランディング!?万津町だからこそできる活動
中尾さんが万津町で活動する中で発見したのが朝市。「月〜土で営業していて、昭和なノリを残しながら今も続いている朝市はなかなかレアだと思いました。ちょっとイカれた朝市が今も残っているというのを、もっとみんなに知ってもらいたい。若者やよそ者の視点で再発見できることがあればいいなという思いで、市内外の若手のお店を集めてNEO朝市というイベントを実施しました」
「外のものを受け入れたり、すぐに馴染んだり、外者を排除しない市民性がすごくあるんじゃないかなと思います。何やってるかよくわからない若者が急に来て『ここで商売させてください』と言ったら、普通は構えるじゃないですか?そんな雑なお願いをしても『面白かけん、よかっちゃない』って受け入れてくれるんですよね」
“よそ者”や“若者”が自然と混ざり合える懐の深さもまた、佐世保の魅力です。
「昭和とかもっと昔からあるようなものと、今ある新しいトレンドだったり時代の流れみたいなものが小さいエリアの中に共存しています」
「海外の方が働かれていることが多いエリアというのもあり、いろいろなところから人が集まってガチャガチャしている感じがとても佐世保っぽい。万津町はまさにそれを体現しているような町だと思いますし、朝市もその一つだと思います」

飽きずに楽しめる場を、自分たちの手で
中尾さんが万津町で運営に携わるホテル『RE SORT(リゾート)』。
「地元にいながら外から人が来る仕掛けを作ることで、僕らが楽しみながらここで暮らしていけるなと。そういう“交流の装置”みたいなものを増やしたいんです。カフェもそうですし、この場所もそうですが、自分たちの手弁当レベルで作れることにトライしています。」
「僕らが勝手に思う”佐世保っぽい部屋”を作ってきました。ここからの眺めも面白いですよね。港にクルーズ船が来ていたら高層マンションみたいに見えることもありますし、修理する大きな船がいたりとか。ここから見る景色だけでもこの街の多様性が伝わるんじゃないかなと思っています」
ホテルの3部屋すべてと屋上にはサウナを設置し「好きすぎて、気づいたら作っていた」とのこと。
万津町という限られたエリアではあるものの「自分たちが動けば、手応えとして返ってくる」という思いで様々な活動を展開しています。
「何せ飽きずに楽しみながら生きていきたいなっていうのはあって。人生100年って長いじゃないですか。でも佐世保との縁というのは一生意識していくと思うんですよね。掘れていない佐世保の面白さをどんどん掘っていきたいです」
「市役所の仕事や万津町のまちづくりみたいなことでいくと、もっと面白い出会いの場面をどうやったら作れるかなと思っています。これまではカフェやホテルを作ったり、イベントなどを行ってきましたが、最近だと自治会の皆さんと”今にあった自治会のあり方”を話す機会もあります」
「みんなが生き生きと暮らしていける仕組みや仕掛けは、今抱えている構想も含めてどんどん実践していきたいなと思います」
中尾さんのその姿は、地方創生という言葉では語りきれない、“面白さ”と“自由さ”に満ちた新しいライフスタイルの提案そのものです。
