- 移住年
- 2022年
- 職業
- 農業版マルチワーカー
ブランド牛である「壱岐牛」の生産やイチゴ、アスパラガスなど農業が盛んな壱岐市。
畜産農家を目指す小松さんは、2022年に壱岐市に移住し、農業版マルチワーカー制度を活用して日々経験を積んでいます。
農業版マルチワーカー制度とは、複数の農業者が出資して設立された「壱岐市農業支援事業協同組合」の組合員として、
人手不足に悩む農業の元で働く派遣制度。
新規で農業を始める人にとっては、安定した収入を得ながら現場の経験をつむことができ、農家としての土台を作ることができます。
小松さんは壱岐市の農業版マルチワーカーの第一期生。
畜産農家を目指して牧場で働く小松さんに、半年間で得た経験、そして働く中で感じる農業版マルチワーカー制度の魅力についてお伺いしました。
のんびりとした暮らしへの憧れと義母からの誘い
壱岐市に移住する前は福岡県でバスの運転手として働いていました。
ツアー旅行のドライバーとして、3回ほど壱岐に訪れたことがあるのですが、こじんまりとして景色もよいところだなという印象でした。
妻が壱岐の出身で、結婚してからは度々壱岐の実家にも遊びに行くようになりました。
妻にとってはふるさとである壱岐で、ゆくゆくは暮らしたいと思っていたようですが、なかなか実行には移していませんでした。
福岡での暮らしに慣れていたので、決心はつきにくいですよね。
帰るきっかけとなったのは2年前。
牧場を経営していた義父が病気で亡くなったんですね。
それからは義母が1人実家に住んで、牧場も1人でやるようになりましたが、やっぱり大変だったんでしょうね。
義母から牛飼いに興味がないかと誘ってもらいました。
正直、寝耳に水でした。
農業の経験もありませんし、職能も全く違いますから。
でも、漠然と定年を迎えたらのんびりとしたところで暮らしたいという思いはあったんです。
ドライバーの定年である60歳まで残り十数年、定年後に自分の環境を変えるのも難しいだろうと思い、壱岐で暮らすことに決めました。
妻もお母さんのことを心配していましたし、声をかけてもらったのがいい後押しになりましたね。
技能の習得と収入の両立
壱岐で暮らすことを決めてから実際に移住するまでは大体半年くらい。その間は職探しをしていました。
農業って自分の中では、個人が独立してやっているイメージだったので、働き口の探し方が分かりませんでした。
また農業は未経験でしたので、いきなり始めるのも不安がありました。
実家の義母に教えてもらいながら、というのも考えましたがそれだと生活が成り立たない。
そんなことを考えながら職探しをしているときに、農業版マルチワーカー制度を紹介してもらったんです。
農業版マルチワーカー制度では、「壱岐市農業支援事業協同組合」の職員として採用されるのですが、
人手が足りていない農家さんのもとへ派遣され、現場で技能を習得することができます。
とても魅力に感じたのは収入を得ながら、経験を積めるということ。
2~3年で独立したいという目標を持っていたので、そのことは当初から伝えていたのですが、
やめると分かっていて採用するケースって一般企業だとレアだと思うんです。
そのうえで、働きながらノウハウを教えてくれるっていうのは願ってもいない環境だなと思いましたね。
藁やり3年。毎日が勉強の日々。
マルチワーカーとして採用されてから6か月が経ちますが、現在は野元牧場に派遣されています。
壱岐の中でも大規模な牧場で、様々なことを教わっています。
最初に教わったのは給餌という牛のエサやりです。
給餌は、飼料と藁を時間ごとに与えるのですが、畜産の世界では”藁やり3年”ともいわれているくらい大事な作業です。
牛がお腹一杯になるように量を調整していくのですが、一方で食べ残しがあったらその藁を捨てなければいけません。
この加減が難しいですね。
牛ごとにエサの量を考える必要があり、「この牛はこれくらい食べられる」というのを頭に入れておかなければなりません。
この管理をするうえで、大事になってくるのが「牛の表情を見ること」。
人間と同じで、たくさん食べる牛もいれば、1回の量は少なくても間食しながら食べる牛もいます。
加えて天候や体調など様々な要素によって食事量が左右されるので、牛の表情を見ながら調整していきます。
この加減が難しいのが”藁やり3年”といわれる理由です。
働きはじめのころは、牛の表情がさっぱり分かりませんでした。
社長と一緒にエサやりをしていると、
社長が「あの牛は、元気がなかね」とか、「エサの食いが悪かけん、ビタミン剤ばやろうか」っておっしゃるんです。
「どこを見てるんですか」と尋ねて教わったのが、牛をよく観察すること。
社長や、他の社員さんに観察するポイントやコツを的確に教わりながら観察することで、少しずつ表情がわかるようになりました。
大きい牧場に身を置くことで自然と人と出会える
独立を念頭に置きながら働いているのですが、マルチワーカーとして働くのは2~3年を目途に考えています。
組合の方ともそこはお話しさせてもらっていて、応援してくれているのでとてもありがたいですね。
独立の目安に置いているのは、牧場の経営を自分で全てできるようになること。
エサやりや、牛が病気をしたときの対応など、学ぶことはたくさんあります。
また、マルチワーカーとして働く中で、独立したあとに相談できるような、人のつながりができました。
もちろん畜産農家として全てできるようになるのが望ましいのですが、何かあった時の相談先があって心強く、
大きい牧場に身を置けて人脈を形成できるのは魅力です。
牧場を経営する上で、地域の方や他の農家さんとの接点が必要になりますからね。
いま義母の牧場では2頭の牛を飼っているのですが、10頭飼いが目標です。
そのために経営の方法も学んでいければと思っています。
いま働いて6か月が経って、まだ出荷まで通して経験していないので全ての工程を経験したいです。
マルチワーカーの制度上、1つの職場で働くというのが難しいんですね。
いまは野元牧場に派遣されていますが、人手が足りていない農家さんのもとへ行く可能性もあります。
ただ、壱岐ではイチゴやアスパラガスなど様々な農家さんがいらっしゃるので、
自分にとっていい経験になると思っています。
自分の畑でも育ててみたい野菜があるので、その勉強になれば嬉しいです。
規則正しくのんびりとした暮らしで健やかな毎日
週に2日、土日に休日がありますが、趣味のDIYや釣り、実家の牛のお世話をしています。
DIYをするうえで、壱岐には大きいホームセンターなどはありませんが、いまは通販を利用しているので、あまり困っていません。
壱岐では規則正しい生活を送れていて、それが自分としてはとても良いです。
福岡でバスの運転手をしていたときはどうしても生活リズムを一定にするのが難しかったので。
いまは鳥の声で起きて静かな環境で暮らしながら、のんびりと芦辺港で釣りができている日々に満足しています。
どこに行くにも車で15分くらい。
渋滞がないというのもとても魅力的ですね。
壱岐を訪れて雰囲気を体験してほしい
壱岐市の農業版マルチワーカー制度を利用する上で、いきなり移住して、というのは難しいと思います。
やはり生活がガラッと変わりますから。
一度壱岐を訪れて、雰囲気を体験したり目で見て感じてもらったりするのがおすすめです。
一週間くらい滞在して、暮らしを体感できるといいのでは、と思いますね。
自分で農家として独立するにあたって、収入と経験を両立しながら得ることができるのはマルチワーカー制度の魅力なので、ぜひ利用してほしいです。
◆壱岐市農業版マルチワーカー制度に関するお問い合わせ先
壱岐市農業協同組合
0920-47-1331(代表)
https://ja-iki.jp/
◆野元牧場
https://iki4129-nomotobokujou.online/